【解説・企画意図】
推理小説で人の心の闇を見つめ続けたアガサ・クリスティー渾身の一作。自身が唯一満足した出来と名言する本作は、特有の緻密な手法で一枚づつヴェールがはがされていくのは事件の真相ではなく、人の〈心〉。描かれているのは誰もが犯しうる罪、愛する相手の人生を大きく傷つけてしまうことの罪。
【あらすじ】
ジョーン・スカダモアは弁護士の夫と三人の子どもをもつ主婦。子ども達はすでに伴侶を得て独立しており、自他ともに認める幸せな生活を送っていた。彼女にはその生活が、自分の内助の功と母親としての献身の結果だと自負していた。
バクダッドに暮らす末娘の病気見舞いを終え、ロンドンに戻る途中、悪天候のため彼女は砂漠の中のレストハウスに足止めをくってしまう。孤独で無為な時間の中、ジョーンは生まれて初めて自身の心の中をのぞき込むという体験を強いられる。
忘れていたはずの記憶が次々と甦り、潜んでいた真実が姿を現す。良妻賢母だったはずの自分が、崩れ落ちるような不安が忍び寄る。
自分の過ちを悟ったジェーンは、帰ったら全てを詫び、やり直そうと決意する。やがて鉄道の運行が再開され自宅に戻ったジェーン。そして心の深層に潜むミステリーが始まる。